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【中国G93】 中国地方都市の「政策の光」が照らす 10地域の成長物語2025.12.05

 

 1. コンパスではなく、「風」を読む時代の到来

①現代の中国市場おいて、成功を収め
る日系企業に問われているのは、以下。

「どこへ」進むかという単純な地理的選択ではなく、
「どの風」に乗るかを鋭敏に感知し、それを推進力
に変える能力。

 

 

②中国には、100万人口を超える都市が300以上
も点在し、 それぞれが、独自の産業特性や 政策
環境、成長物語を持っている。

 

この多様で、複層的な市場で持続的な成長を
実現するためには「従来の都市分類を超えた」、
より知覚的で戦略的なアプローチが不可欠。
　　↓
その答えは、以下。

それは「政策の光が当たっている場所」
に焦点を合わせ、そのエネルギーを自
社の成長エンジンに変換すること。

 

 

③国策から省策、 市策に至るまで、これらの政策的
な潮流を読み解き、 自社の強みと接続させることで、
ローカル市場での「ポジショニング」 は、圧倒的に、
有利なものへと変化する。

 

 

④今回は、 2025年までの動向を 踏まえ、 まさに
その「政策の光」を、存分に浴び、産業構造の転
換や、 驚異的な成長を実現している中国の地方都
市10都市にスポットライトを当てる。

 

これらの都市は、もはや単なる「進出候補地」
ではなく「戦略的ビジネスパートナー」とし
ての顔を2026年に向けて持ち始めている。

 

 

 

 2. 政策の光が生み出す10の成長物語

【成長物語❶】合肥（安徽省）
（科学技術イノベーションのオーケストラ指揮者）

①成長の結果：

「中国のメディアバレー」 あるいは「東方のシリコ
ンバレー」とも称され、 新型ディスプレイの京東方
（BOE）、音声AIで知られるiFlyTek、 さらに バイオ
医薬や量子技術に至るまで、先端技術企業が高度に
集積するクラスターを形成している。

 

2023年、合肥市のハイテク産業増加値は前年比
10%以上増加し、 戦略的新興産業の比重が全市
規模以上工業の 56%を超えるまでに成長した。

 

 

②理由と背景：

この急成長の核心には、安徽省および、合肥市政
府が、推進する「創造的産業クラスター」政策と
地方政府自らが、「ベンチャーキャピタルの役割」
を果たすユニークなモデルがある。

 

特に注目すべきは、 中国科学技術大学（USTC）
を核とした産学連携のシステマティックな推進。
　　↓
合肥市政府は、単なる補助金提供者を超え、企業の
ライフサイクル全体にわたる「総合支援パッケージ」
を設計。

 

土地供給、人材紹介 (「江淮英才計画」など) 、行
政手続きの ワンストップサービス、 先端技術の
商業化を橋渡しする 「産業化プラットフォーム」
まで、企業成長の各段階をオーケストラの指揮者
のように緻密にサポートしている。

 

 

例えば、新型ディスプレイ産業では、原材料から
パネル製造、デバイス応用までをカバーする完全
な産業チェーンが構築され、日系素材・装置メー
カーにとっては、不可欠なパートナーシップの場
となっている。

 

 

【成長物語❷】貴陽（貴州省）
（雲の上のデータ要塞と生態系構築）

①成長の結果：

中国ビッグデータ産業の 最重要拠点 「中国数谷」
としてApple、Huawei、Tencentをはじめとする
国内外の IT巨人のデータセンターが集積。

 

クラウドコンピューティングや、 データ取引、
セキュリティなどの関連企業が、8,000社以上
も集まっている。

 

 

②理由と背景：

元々は経済的に遅れた地域と見られていたが、
冷涼な気候（年平均気温15℃前後）と、安定
た水力発電による低廉で グリーンな電力とい
う地利を最大限に活用。

 

2015年に国家レベルで「国家ビッグデータ総合
試験区」に指定されたことを決定的な転機とし、
国策と一体となった推進体制を確立した。
　↓
政策的な優遇（法人税の減免、研究開発費補助）
に加え、 世界に先駆けて設立された「貴陽大デ
ータ取引所」は、 データそのものを法的・経済
的に取引可能な資産として、 流通させる画期的
な生態系を築いた。

 

これは、データ利活用の新たなビジネスモデ
ルを模索する日系企業にとって、実証実験や
パイロット事業を展開する上で、極めて価値
の高い環境を提供している。

 

 

【成長物語❸】徐州（江蘇省）
（重厚長大から知能製造への構造転換）

①成長の結果：

徐工集団に代表される建設機械産業の世界的リー
ダーとしての地位を堅持しつつ、 産業用ロボット、
スマート工場ソリューション、 高度な基礎部品な
どへの産業高度化が顕著に進展。

 

 

②理由と背景：

かつて「石炭の都」として知られたこの都市は、
国の「製造強国」戦略と「デジタル経済」政策
の流れを汲み「製造業のデジタルトランスフォ
ーメーション」政策によって、見事な再生を遂
げたモデルケース。

 

地方政府は、企業の設備更新・自動化投資を後押
しする「設備更新補助金」と、 地域内で産業チェ
ーン（サプライチェーン）を 完結させようとする
企業への「産業チェーン完備奨励金」を 組み合わ
せて投入。

 

さらに、中国鉱業大学など地域の大学・職業訓練
校と連携した「デジタル人材育成プログラム」を
立ち上げ、産業転換を支える中核人材を持続的に
供給している。
　↓
伝統的な強固な製造基盤の上に、デジタル技術と
いう新しい層が積み上がる「レイヤード・イノベ
ーション」が起こっている都市と言える。

 

 

【成長物語❹】宜昌（湖北省）
（長江経済帯のエコ・フロントランナー）

①成長の結果：

三峡ダンプの所在地として知られる同市は、従来の
化学工業依存から、 バイオ医薬、 精密化学、 クリ
ーンエネルギー（水力、太陽光）、 有機農業などの
高付加価値で環境負荷の低い産業群への転換に成功。
　　↓
　湖北省内有数の
「グリーン産業クラスター」が形成されつつある。

 

 

②理由と背景：

「長江大保護」という国家的な環境保護・生態
回復政策が、 逆説的にこの都市の産業高度化の
強力な起爆剤となった。

厳格化される環境規制は旧来型の汚染産業を淘
汰する一方で「環境基準をクリアする先端企業」
に対する選別的な誘致と支援を促進。

 

宜昌市政府は「グリーン産業発展投資誘導基金」
を設立し、環境技術やクリーン生産プロセスを
持つ企業への投資を積極化した。
　↓
これは、環境規制がビジネスの制約ではなく、
イノベーションと産業更新の触媒となりうる
ことを示す好例である。

 

環境技術や持続可能な素材に強みを持つ日系
企業にとって、 その技術力を実証・展開する
格好の舞台となる可能性を秘めている。

 

 

【成長物語❺】贛州（江西省）：
（戦略的素材”のバリューチェーン支配者）

①成長の結果：

世界有数の レアアース資源を 背景に、「単なる産地」
から、磁性材料、高性能永久磁石、新エネルギー車
（NEV）用ドライブモーターなど 「下流高付加価値
産業の重要ハブへ」と変貌を遂げている。

 

 

②理由と背景：

レアアースは国家戦略物資である。

贛州はその優位性を活かし、中央政府の強力な支援
の下、「採掘→分離・精製→材料化→部品・製品化」
という全バリューチェーンを地域内で垂直統合する
国家プロジェクトの中心地となった。

 

具体的には、「中国希土集團」などの国有企業
と連携し、「贛州レアアース新素材応用研究院」
などの研究開発プラットフォームを設立。
　↓
原料供給の安定性と コスト優位性という基盤の
上に、 高度な加工・応用技術を積み上げること
でサプライチェーンの「強靭化」と「安全保障」
が求められる現代の産業界において、 絶対的な
戦略的価値を確立しつつある。

 

 

レアアース関連技術や、代替材料開発に取り組
む日系企業との協業の潜在性は大きいと言える。

 

 

【成長物語❻】嘉興（浙江省）：
（二大ハブを繋ぐ光る中継基地）

①成長の結果：

半導体製造装置・部品、光通信デバイス、スマー
トセンサーなどの、先端製造業の新興クラスター
が急成長。
　↓
上海や杭州から「移転・拡張」を図るハイテク企
業の最適な受け皿としての地位を、確立している。

 

 

②理由と背景：

「長三角一体化発展」という国家レベルの地域協
調戦略が、同市に最大級の恩恵をもたらしている。
　↓
上海（金融・イノベーションの中心）と杭州（デ
ジタル経済の中心）という、二大経済ハブを結ぶ
「地理的・経済的結節点」としての利点を、地方
政府は戦略的に最大化した。

 

 

具体的には、相対的に、低廉な土地・居住コスト、
整備された高速鉄道・高速道路網による「１時間
ビジネス圏」 の確立に加え、「嘉興科技城」 など
のハイテクパークを重点整備。
　↓
上海の研究開発力と、嘉興の製造・ 実装能力を
組み合わせる「上海研發、嘉興製造」 という分
業モデルを推進し、 その実現を支援する税制優
遇や、行政サービスを提供している。

 

 

研究開発拠点は上海に置きつつ、量産・実証拠
点を嘉興に置くという、日系企業にとっても現
実的な「選択肢」を提示している都市である。

 

 

【成長物語❼】洛陽（河南省）：
（古代の都の、精密ものづくりという第二の人生）

①成長の結果：

大型・超大型転がり軸受、 スマート農業機械、 新エ
ネルギー建設機械・ トラクターなどの 重要生産基地
としての地位を固め、 特に 「宇宙強国」「交通強国」
プロジェクト向けの、 高信頼性部品サプライヤーと
して注目を集めている。

 

 

②理由と背景：

「中部地区の振興」と「製造業の高度化」という
　２つの国家的政策が、交差する要衝に位置する。

 

十三朝の古都としての、深い歴史的文化資産は、
時に「保守的」というイメージにも繋がったが、
同市は、これを逆手に取り「千年の歴史が育ん
だ匠の精神と堅実さ」を「高精度・高信頼性の
ものづくり文化」として再ブランディング。
　　↓
　国家的重大プロジェクトに参入するための
「信用」と「実績」を効果的にアピールしている。

 

産業面では従来の重工業基盤（第一拖拉機廠など）
をデジタル技術で アップグレードする「智能製造
(スマート製造) 」プロジェクトを推進し、 国産化
が急がれる 産業用基礎部品・基盤技術の開発拠点
としての役割を強化している。

 

 

品質と耐久性を追求するBtoB市場において、日
系企業の技術協力のニーズは高いと 考えられる。

 

 

【成長物語❽】株洲（湖南省）：
（鉄路が敷いた、未来型モビリティへのレール）

①成長の結果：

「電力機関車の故郷」から高速鉄道、都市軌道交
通、中低速磁気浮上鉄道（マグレブ）に至るまで、
世界をリードする「軌道交通産業クラスター」へ
と完全に変貌。

総合的な技術ソリューションの輸出拠点となっている。

 

 

②理由と背景：

「一帯一路」構想における、 鉄道インフラ輸出の
「心臓部」として、 国家からの、集中的な研究開
発投資、輸出信用保証、標準化支援を受けている。

 

その最大の特徴は中車株洲電力機車研究所などの
国家级研究機関、数百社に及ぶ専門部品メーカー、
最終組立メーカーが狭い地域内に密集する「自給
自足型産業コンプレックス」を形成している点。
　　↓
この密集ネットワークにより、新技術の共同開発
から実用化、量産化までのスピードが非常に速く、
イノベーションの実装効率が極めて高い生態系が
できあがっている。

 

 

次世代モビリティ技術に関わる日系企業
の 協業先としての「魅力」は増している。

 

 

【成長物語❾】濰坊（山東省）：（農業の巨人から、
スマート農業のシステムインテグレーターへ）

①成長の結果：

雷沃重工（LOVOL） などに代表される農業機械の
世界的プレーヤーとしての地位を基盤に、 農業用
ディーゼルエンジン、 農業用ドローン、 AIを活用
した精密農業ソフトウェア、 スマート温室システ
ムなど、 農業の価値全体をカバーする「スマート
農業総合サプライヤー」への進化を遂げている。

 

 

②理由と背景：

「国家郷村振興戦略」と「食料安全保障」の強化
という２つの国家的要請が、同市の産業発展に絶
好の追い風となった。

 

山東省自体が中国有数の農業大省であり、広大な
実証フィールドと、多様な作物によるニーズが眼
前にあるため、製品開発と現場テストのフィード
バックループが非常に速く回る。
　↓
地方政府は「スマート農業模範園区」を各地に設置
し、これらは単なる展示場ではなく、最新技術の実
証・改良・普及のための 生きたラボラトリーとなっ
ている。

 

 

農業のデジタル化・省人化は日本の喫緊の課題
でもあり、 濰坊の産業クラスターは日本の農業
技術と中国の市場規模・実装スピードを「結合」
させる可能性に満ちた協働の場を提供している。

 

 

【成長物語⑩】蕪湖（安徽省）
（自動車産業の垂直統合型新拠点）

①成長の結果：

国産自動車メーカー奇瑞汽車 の本拠地として 従来
からの 自動車産業基盤を土台に、 新エネルギー車
（NEV）、特に、電気自動車（EV）とその核心部品
（バッテリーや、 電動駆動システム、車載半導体、
　軽量部材) の一大集積地へと急成長を続けている。

 

 

②理由と背景：

安徽省が省を挙げて推進する「世界級新エネル
ギー自動車産業クラスター」構想の中心都市に
位置付けられている。

 

従来の自動車産業のサプライチェーンを「電動化・
知能化・ネットワーク化」の方向へと大胆にアップ
グレードさせる政策パッケージを実施。
　↓
地元の英雄である奇瑞汽車を核とし、その周辺に
バッテリー大手（寧徳時代 (CATL) の工場も進出）、
モーター、車載AIチップなどの重要サプライヤー
を 戦略的に誘致し、「１時間サプライヤー圏」の
構築を目指している。

 

これは、サプライチェーンの効率性と、安全性を
高める「垂直統合に近い地域集中モデル」である。

 

急速に変化する自動車産業において、開発から量産
までの迅速な連携を必要とする日系部品メーカーに
とって、この生態系に参画することは「極めて戦略」
的な意味を持つ。

 

 

（参考）「次の主役」は地方にあり。中国市場で差がつく５つの選択

 

 

 

 

 

 

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